過去の国際尺八音楽祭主催者からのコメント
- ライリー・リー: 第5回国際尺八音楽祭 (2008年、 シドニー)主催者
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国際尺八研修館30周年お祝いの言葉
国際尺八研修館30周年記念おめでとうございます!今回は参加することができず、このような形でお祝いの言葉をお送りすることになってしまいましたことをご容赦ください。
横山先生が国際尺八研修館を設立することができたのは寛大な美星町のコミュニティがあったからこそです。なんて素晴らしい町でしょう!また、横山先生が信頼を寄せていた直弟子の方々も今回のお祝い場に集まっていることでしょう。
しかし、やはり国際尺八研修館の創立は横山先生の努力の賜物であります。先生がこの場にいらっしゃらないのは悔やまれてなりませんが、先生の魂は我々と共にあるはずです。
国際尺八フェスティバルの主催者であれば誰でも、どれほど大変なことかを心得ています。私は2008年のシドニー尺八フェスティバルに関わらせていただきましたが、それは身を削って尽力したことが本当に報われたと感じる体験でした。横山先生にフェスティバルの開催に携わる機会をいただけたことは、ただただ感謝の限りです。
記念の年を迎えるにあたり、尺八コミュニティの国際化を振り返りましょう。国際尺八フェスティバルはこれまでに美星だけでなくボルダーや東京、ニューヨーク、シドニー、京都、そして最近はロンドンで開かれてきました。次回のフェスティバルは2022年に中国での開催を予定しており、さらに尺八という伝統を世界に広めていくことでしょう。
さらに、国際尺八フェスティバルでは様々な流派、演奏形態、そして考え方を取り入れています。国際尺八研修館の枠を超え、今ではこれらのフェスティバルのモデルを基に始められた比較的小さなフェスティバルやキャンプが世界各地で定期的に行われています。
国際尺八研修館が主とする目標は達成され、さらにそれを超えたと言っても過言ではないでしょう。改めまして、本当におめでとうございます!
しかしこの節目の年にこそ、現在を評価し、そして未来に目を向けましょう。横山先生が今日ここにおられないのと同じように、私を含め多くの尺八奏者は2038年にはもうこの世にいないかもしれません。だからといって今後30年間について考えなくても良いということでは決してありません。30年前に構想された国際尺八研修館の目標が達成されたのであれば、また次の30年に向けた新しい目標を立てることは私たちの任務です。
2038年に尺八コミュニティはどうあるべきか?そこに到達するために私たちにできることは何か?
横山先生の意見を聞くことができれば!しかしそれが不可能な今、私たちは自分たちの、多種多様で時に対立する見解を頼りにするしかありません。私はそれでも、その話し合いの過程に参加できることを楽しみにしています。
ライリー・リー
2019年7月23日
オーストラリア、マンリー
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- 倉橋容堂:第6回国際尺八音楽祭(2012年、京都)主催者
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おめでとうございます!
国際尺八研修館設立30周年、まことにおめでとうございます。30年にわたって、創設者横山勝也先生ならびに多士済々たる館員諸師が尺八音楽の国際的な
普及のために果たされた功績は、いまさら私が申しあげるまでもありません。中でも国際尺八フェスティバル(WSF)の開催は、尺八史上でも特筆されるべき
偉業です。尺八の歴史が変わりました。
WSFは第2回以後は、研修館の手から離れて、世界各地の尺八愛好者に引き継がれ、私は2012年の第6回「WSF京都」を実行委員長として担当させていただき
ました。
WSF京都! それは10年ぶりの日本開催であり、しかもよりによっての「京都」! 想像を絶する難事業でした。私は熟考し、あえて従来のスタイルを覆し、
徹底的に「京都のWSF」という性格を前面に押し出しました。つまり、WSFを一新したのです。
おかげさまで、WSF京都は大成功、多くの人から「おめでとう!」と肩を叩かれました。
ところが、閉会式のとき、実は私は横山先生の存在を、もちろん姿は見なかったけれど、ひしひしと感じていたのです。それは会場全体を包み込む圧倒的な
存在感でした。
今では私は、不遜にもWSFを一新しようと思いあがった私の意図は、実は天国から指図された横山先生の意思だったのだと思っています。それは計り知れない
巨大な包容力です。
信じる人にしか信じてもらえない私の忘れられない「横山体験」でした。
倉橋容堂
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- キク・デイ:第7回国際尺八音楽祭(2018年、ロンドン)主催者
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WSFは尺八の世界で最も象徴的なイベントであり、その規模、歴史、そして広がりにおいて他のどれよりも勝っています。昨年、WSFをヨーロッパに呼ぶことができ、そして今日の尺八世界における重要な一部としてヨーロッパを確立させることができたことはまさに夢の実現でした。新しい尺八奏法やアプローチに対して寛容なフェスティバルという横山勝也氏の展望なくしては、このフェスティバルの実施は不可能でした。彼が積み上げてきたものを想うと、私は深い感謝の念にたえません。横山勝也氏および世界各国でWSFを組織してきた偉大な演奏家の足跡をたどる機会を得られたことは大変に光栄なことです。また、私が実行委員会の議長を務めはしたものの、ここで欧州尺八協会(ESS)の重要メンバーでもある実行委員会の他の4人のメンバー、Michael Soumei Coxall、Nigel Puttergill、Jim FranklinおよびThorsten Knaubの各氏より私が上に位置づけられるものではないことを指摘しなければなりません。いずれにせよ、WSFの主催者とは、特定の理由があって選ばれるものではないと思います。こういった大きなイベントを主催してきた方々は、世界の尺八コミュニティに多大な時間と労力を費やしてきました。それができたのは、良いチームで一緒に仕事ができるという特権があったためです。とはいえ、このような大規模のイベントを企画するのは大変なことでした。個人的に、私は自分の身体の感覚を取り戻すために1200kmにわたる四国八十八ヶ所を歩いて巡らなければならないほどでした。また、こういった大きなイベントを主催するにあたって直面するのが財政面におけるリスクです。日本経済は1990年代から大きく変化しており、国際的なフェスティバルを開催するのに十分な予算を確保することは簡単なことではありません。過去の主催者の中には、不足する分を自費で賄うような方々もいらっしゃいました。WSF18では、ロンドンへの交通費や宿泊費などを自己負担しようという多くの演奏家の方々、そして演奏やワークショップの報酬を受けないことで支援を送ってくださる方々の暖かいご協力をいただきました。寄付金をWSF18にお寄せくださった方もいらっしゃいました。私は、どの寄付も2,500ポンドを超えることなく、そしてWSF18が親切で寛大な方々のおかげで、なんとか成功に終わることができたことを非常に誇りに思っています。WSF18の開催チームとESSメンバーを代表して、寄付をくださった匿名の皆様に心からの感謝を申し上げます。そしてまた、古屋輝夫氏、眞玉和司氏、柿堺香氏、Christopher Blasdel氏らの先生方にも心からお礼を申し上げます。彼らの貢献に敬意を表します。
WSFが開催されるたびにこれまでなかったジャンルやアプローチが導入され、尺八界の民主化とあらゆるスタイルやジャンルにも等しく光を当てるという動きにとって、WSFは非常に重要なイベントとなりました。1994年に少しだけ登場したことは別として、WSFの歴史の中で初めて民謡尺八の導入に貢献する機会を得たことを嬉しく思います。民謡によってWSF2018にお祭りのような雰囲気が生まれ、これまで不足していたもの、エリート志向でなく、民衆のもの、お祭りとしての音楽の側面を加えました。民謡を取り込めたことは、私の博士号指導教員であり比類なき民謡の専門家である、David Hughes氏の貢献なしには起こり得なかったことでしょう。彼は2017年に日本国天皇から旭日章を受章し、2018年には小泉文夫音楽賞を受賞しています。
また、私の個人的な民族音楽学のフィールドワークの連絡先を活用して、地域の伝統を持つ演奏家をWSF2018に招待し、フェスティバルに参加してもらうことができたことも私にとって重要なステップでした。これにより私達は、青森県の伝統を保持する錦風流の山田史生氏と須藤脩鵬氏を迎え入れることができたのは喜びでした。また明暗対山派と明暗寺を代表し、地域の尺八の伝統を受け継ぐ明暗寺42世看首の清庵玄心氏、そして福岡の一朝軒看主である磯玄明氏がフェスティバルに招かれました。関西地域の尺八演奏家の何名かは京都のWSF12に参加しましたが、彼らをヨーロッパに招くことができたのはまさに魔法のようでした。
私は、WSFを開催する場所をフェスティバルの中で何らかの形で表現することが重要だと思います。WSF2018では、「London Meets Japan」という名前でロンドン・インプロバイジング・シーンのメンバーを招待することができました。4人のロンドンのミュージシャンが、黒田鈴尊、小濱明人、榎本秀水、そして織茂サブとの音楽的な出会いを果たしました。尺八の長年の即興演奏家のひとりでもあるClive Bellも参加し、それによってロンドンのWSFでの即興演奏の重要性を強調しました。
尺八のための現代音楽の最も重要な作曲家の一人であることに疑いないイギリスの作曲家Frank Denyerの作品に焦点を当てたコンサートが開かれました。彼の曲のほとんどは、しばらく前に引退した尺八奏者、岩本由和のために書かれたものなので、おそらくは初めて聴く人が多かったことでしょう。フランクの音楽が再び演奏されたことに対し、黒田鈴尊、川村葵山、Richard Stagg、そしてOctandreの各氏に感謝します。
主催者として、私たちはもちろんいろいろなフィードバックを耳にしました。それはポジティブなものだけでなくネガティブなものもありましたが、非常に矛盾しているものもいくつかありました。例えば、三曲が多過ぎる、いや不十分だ、現代音楽が多過ぎる、いや足りない、地なしの演奏が不十分だ、いや多過ぎる、日本の演奏家が多過ぎる、ヨーロッパの演奏家が多過ぎる、いやヨーロッパの演奏家が足りない、など。このような広範囲のフェスティバルでは、全ての人に何かを与えられるようにと試みますが、プログラムは常に妥協の連続です。現在は尺八の世界の人口構成も変わりました。私たちが受けた批判、特にヨーロッパからの批判は、プロの尺八演奏家が全員は招待されなかったということでした。この比較として、20年前のボルダーでのWSF1998について見てみましょう。このフェスティバルでは誰でも、といえるほど非常に多くの方が招待されました。しかし、その時点では「だれでもだれでも」という尺八演奏家は現在と比べてはるかに少なかったのです。以来、尺八の世界は爆発的に広がり、20年前と比較してはるかに多くのプロがいます。今日、フェスティバルを運営する唯一の方法は、妥協しながら尺八の世界を代表する招待者とプログラムを選別することですが、よって残念ながらすべてのふさわしい演奏家を呼ぶことはできないのです。
私は、WSF実行委員会初の女性議長として、今後もっと多くのことを見ることを楽しみにしています。プログラムには、ますます多くの女性演奏家が登場することを願っています。しかし、これは時間のかかるプロセスであり、ニューヨークのWSF04でRonnie Nyogetsu Reishin Seldinによって企画された女性だけのパネルディスカッションとコンサート以来、長い道のりを経てきました。やるべきことはまだたくさん残っています。
私たちは新しいジャンルの限界を十分に押し広げてきました。そしてWSF2022のCain LiとWilliam Liにバトンを渡すのはもう間もなくです。彼らは、大きなジャンルとしてポピュラー音楽を含めるなど限界をさらに広げてくれるでしょう。私はWSF 2038か42を経験するのが楽しみで仕方ありません!私は、それが今日想像できることをはるかに超えるものになると確信しています。
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