今月のワンポイントアドバイス97年版
   97年2月 「音を練る」。
   97年3月 「口(くち)の形を考える」。
   97年4月 「音階練習」。
   97年5月 「むらいき」を考える。
   97年6月 「コロコロ」のこつ。
   97年7月 「長管を吹く時の姿勢」。
   97年8月 「メリの時の手孔の開け方」。
   97年9月 「メリの時の口と歌口の関係」。
   97年10月 「ロ吹き・メリ・ビブラートの関係」。
   97年11月 「めった後の話」。
   97年12月 「める前の話」。

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97年2月 「音を練る」。

 神様が「一つの音だけでいいから聞かせてくれ」とおっしゃった時に、あなたは自信をもってその一音を吹くことができますか。
 ここぞという時に思い通りの音が出せなかった経験はどなたにもあると思います。
 また、満足のいく音は出せたことがない、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 本当に満足のいく音は一朝一夕に獲得できるものではありません。しかし、だからといって手をこまねいていては、いつになってもその境地に達することもできません。
 理想の音を出せる境地に近づくための毎日の練習方法があります。それは、「ロ吹き」です。「乙のロの音」を毎日10分間吹きます。これを、続けることで達人になれる、と海童道祖(わたづみどうそ) 師は常々おっしゃっていたそうです。
 一口に「ロ吹き」と言ってもそうそう簡単ではありません。下記の事項を守って「ロ吹き」を続けてみてください。

  1. ビブラート(ゆり)をつけないこと。
  2. 吹き初めにどこかの手穴をあたったりしないこと。
  3. メッた状態から吹き始めないこと。
  4. 息が有るときと無いときで音程に差が出ないようにすること。
  5. できるだけ長く。
  6. できるだけ大きく。

 つまり、何の装飾もなく、ただただシンプルな乙のロを吹くわけです。これがとてもむつかいしいことなのです。特にはじめの3項目ですが、癖になっている方が多いようです。自分で気付いていないことは、直せません。客観的に自分の音を聞くということはとても大事なことです。
 国際尺八研修館主催の講習会では講習の始めに必ずこの「ロ吹き」を長いときでは20分ぐらいおこないます。講習会になんども参加してくださっている方々の音が、見違えて良くなっていくのがよくわかります。
 一日10分の「ロ吹き」。しばらく続けてみませんか。

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97年3月 「口(くち)の形を考える」。

 尺八を吹くときの唇のすき間について考えたことがありますか。息の出る部分です。

  1. 吹いている途中で乙が甲になってしまう。
  2. 息があるのに音が途切れてしまう。
  3. メリが出にくい。
  4. 思っているほど ゆり(ビブラート)がかかっていない。
  5. 音色が固い。広がりのある音が出ない。

ということがありませんか。これらの原因に唇の息の出るすき間に問題がある場合が多く見受けられます。音が出るポイントを小さくとらえてしまっているのです。音の出るポイントをできるだけ大きくとらえることが大切です。
 音が出るポイントを小さくとらえているということは、歌口の鋭くなっている部分に息がうまく当たっていてもほんの少しの条件の違いで鳴るポイントをはずすことになってしまいます。これによって起きるのが始めに述べた、1〜2項なのです。
 また、メリや ゆりも吹く角度を変えるので、音が出るポイントを小さくとらえていると鳴るポイントからはずれやすいのです。(3〜4項)
 それに、倍音の構成が(5度上の音や、オクターブ上の音の混じり具合)固い音に感じられるようになってしまいます。(5項)
 
 全く音の出ない初心の方に、唇を横方向に強く引っぱりなさい、という教え方がある場合もあるようです。拡散していた息の流れが、このアドバイスによってまとまりやすくなって、音が出るようになる例もないことはないでしょう。しかし、この方法では音が出るポイントを小さくとらえてしまいがちで、1〜5の項目と離れられなくなってしまいます。
 
 音の出るポイントをできるだけ大きくとらえることが大切です。
 
 国際尺八研修館の講習会では、毎回このような問題についても実演を交えてご説明しております。特に音色は如実に効果が分かります。また、お一人お一人の唇の形や吹きぐせが違うので音の出るポイントをできるだけ大きくとらえる具体的な方法は、一概に言うことは誤解を招くことにもなりかねません。お一人お一人へのアドバイスについては国際尺八研修館の講習会でおこなっておりますので、お気軽にお越しください。驚くほど、音が自由になっていきます。


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97年4月 「音階練習」。

 チェロの名人 パブロカザルスは晩年まで毎日ハ長調の音階(つまりドレミファソラシド)の練習をしていたそうです。世界的にまた歴史的に名演奏家といわれたカザルスでさえ音階の練習をかかさなかったということは、音階がどれほど大切であるかということです。
 尺八でも音階の練習をするということが大切であることはいうまでもありません。しかし、以外と音階の練習はなおざりにされてきたのではないでしょうか。
 正しいロツレチリロを出すことはほんとうはとても難しいことなのです。ただのロツレチリロ(チューナーではD F G A C D )をチューナーを利用してもう一度チェックしてみてはいかがでしょうか。尺八の楽器自体のくせで微調整をしないと正しく出ない場合も有ると思います。正しい音階に対する感覚を磨くことは本曲でも現代曲でもとても大事なことです。
 この音階の練習を更に発展させて行う、とても有効な練習方法があります。それは、ロツレチリロの音階を半音づつずらして吹くのです。つまり、1尺7寸管のロツレチリロ、1尺6寸管のロツレチリロ、1尺5寸管のロツレチリロ、などを1尺8寸管で出すのです。また、ドレミファソラシドを1尺8寸管で出す練習、そして、それを半音づつずらして吹く練習も効果的です。ツの中メリ、リの中メリなど確実にとらえにくい音程もこの練習で安定して出せるようになるでしょう。
 このほかにも、いろいろな音階があり、それを半音づつずらして吹く練習をすることで演奏技術は飛躍的に進歩します。
 乙のロ10分と音階練習を日課にしてはいかがでしょうか。


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97年5月 「むらいき」を考える。

 尺八の音の中で、魅力のある音の一つに、「むらいき」があります。ただ力いっぱい吹けば出るかというとそうはいきません。むらいきに対する、あるいはその曲に対する「思い」が大切なのは言うまでもありませんが、本当に魅力のあるむらいきを出すにはそれなりのテクニックが必要であることも事実です。
 さて、魅力的なむらいきを出すにはどうしたら良いか、大きく分けて2つの要素があります。
 一つ目は「むらいき的な音色を作る」ことです。音量は大きくならなくても、むらいき的な音色というのがあります。これには、「口の中を狭くする」ことです。ホースで水をまくときにホースの先端から10cmぐらい元のほうを押しつぶすと、出てくる水の流れが乱れます。これと同じで、出てくる息の流れを乱してやることで、音色がかわります。(澄んだ音を出したければこれと逆に口の中を広げる)口の中の構造は一人一人違っているので、具体的にどうしたら良いかは、お会いしないとアドバイスしにくいのですが、一つの方法としては、舌を持ち上げて息の通り道を狭くすることです。いろいろ試して見てください。
 そして、二つ目は、「強い息を、鳴るポイントに当てる」ことです。息を強くするとほとんどの場合、鳴るポイントよりも前に息が当たってしまいます。またホースを例にとると、垂れ下がったホースの水の勢いを強くするとホースは真直ぐになろうとします。これと同じで、息を強くすると気道を通ってきた息が真直ぐ出ていこうとするのです。したがって、息は普段吹いているポイントよりも前に行ってしまうのです。強く吹く時に、いつもより少し中に息を入れるようなつもりで吹いて見てください。これで強い息が普段鳴っているときのポイントに当たるようになるでしょう。また、ポイントをはずさないためには、口の息の出る穴を大きくすることも試してください。強い息(流れの速い息)のために唇を締めていませんか。息を強くすると息の方向が変わります。そのうえ、唇を締めてしまっては、鳴るポイントからはるかに遠ざかってしまいます。
 
 更に、魅力のあるむらいきのためには、息の量も多い方が良いのはいうまでもありませんし、腹筋も強いに越したことはありません。でも、もし本番でここぞというときに、むらいきがうまく出なくても、その思いきりの良さ、必死さ、といったものは聞く人の心をとらえるでしょう。失敗の確率を減らすために、少し力を抜くような演奏態度は人の心を決してうちません。


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97年6月 「コロコロ」のこつ。

 「鶴の巣籠」の中で重要な役目をする奏法の一つに「コロコロ」があります。他の本曲のなかでももちろん鮮やかに演奏したい奏法ですし、また、現代曲の中でもしばしば登場します。ところがなかなかきっちりと決まらないのが「コロコロ」であります。国際尺八研修館で講習する本曲のコロコロは五孔を少し開けて、めって、一・二孔を交互に開閉します。この方法で演奏すると強いイントネーションになります。大事なことは音程です。コロコロの音程はあくまでも「リ」ですからコロコロ……と演奏したときにリリリリリリリ……と聞こえなければなりません。二孔が開いたときの方が音程が高くなりがちですので、メリの程度を二孔が開いたときにはより深くするか、手孔と指の間隔を一孔を開けるときより二孔を開けるときに狭くする必要があります。このことで音程の問題は解決できると思います。

 もうひとつの問題はコロコロがホヨホヨという感じに聞こえてしまうことです。はっきりとした音の変化が少なく、めりはりのないコロコロになってしまう場合をしばしばみうけます。これは一・二孔を交互に開閉するときに一・二孔が同時に閉まることがないためにおこります。つまりコロコロは
(一孔開)→(一・二孔閉)→(二孔開)→(一・二孔閉)→(一孔開)
という順序で指を動かす動かせばホヨホヨになりにくいのです。
練習のときには上記の順序をきちんと守れるスピードで行い、指にしっかりこの動きを覚えさせましょう。つい早く動かしたくなりますが、正確さが大切です。早く動かすことよりも正確に動かすことのほうがずっと大変です。正確にできれば早くすることは容易です。メトロノームに合わせてこの動きを練習するのも一つの方法でしょう。一日10分この動きを練習すればすぐにコロコロの達人になれるでしょう。


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97年7月 「長管を吹く時の姿勢」。

 長管尺八に限らず姿勢は大切です。しかし特に2尺4寸ぐらいの長管になってくると悪い姿勢では音が非常に出にくくなりますし手首を痛めることにもなります。
 長管を吹いたときになぜ音が出にくくなるかというと、原因は多くの場合簡単です。それは手孔のふさぎもれです。しっかりふさごうとして力を入れるとよけいすき間が開いてしまい、鳴らなくなります。特にロだけ出にくい場合はふさぎもれであることが多いと考えられます。たとえば2尺4寸を持った場合に1・2孔のおさえかたはどのようにしているでしょうか。1尺8寸の時と同じように指のわりと先のほうでおさえていませんか。その場合手首に負担がかかっていませんか。2孔を人さし指の付け根に近いほうでおさえるようにしてみてください。そして、管尻を(右手が下の人は)右膝の上に来るように(つまり正面に向かって正座の膝を左45度の方向に向けるように)するのです。箏の生田流の姿勢に似ています。
 また手孔の位置も御自分の手に合った位置にあればなおよいでしょう。つまり、3孔は少し左に、1孔は少し右に(右手が下の方)ずらすことで手にかかる負担が減ります。これは演奏の自由度が増すことです。
 良い音程・自由な運指のために鏡に映して、ビデオに撮って自分の姿勢をもう一度見直して見ませんか。


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97年8月 「メリの時の手孔の開け方」。

 尺八の音の魅力の一つがメリ音ではないでしょうか。しかし同時に尺八の奏法のなかでもっとも難しい音でもあります。今月からメリについて何回かに分けて、より正確なメリのためのヒントをお伝えします。
 今月は「メリの時の手孔の開け方」です。
 例えば、ツのメリのときにみなさんはどのように手孔を開けているでしょうか。まれに、手孔の上部にすき間を作る方法でメリをだしている方をみかけますが、正確にメリを出すのにはとても不利です。手孔に徐々にすき間を作っていく場合、上部にすき間を作ると音程がすぐに高くなってしまいます。もちろん正しい音程がだせればどのようにすき間を開けてもよいのですが、手孔の下部にすき間を作る方法の方がより微妙なコントロールが可能になります。どのメリ音に関しても手孔は下部からすき間を作っていくほうがよいでしょう。
 また、メリのときどのように指を移動させていますか。簡単なことですが、素早く、正確にできる方法が良い方法です。素早く、正確にのほかにもう一つあります。それは、違う音が入らないということです。つまり、ツのメリからロへ音程を移動するときに必要のないツの音が出ない方法です。
具体的に言うと、指を転がすようにしてすき間をあければ、戻すときにも転がすようになりますから、ツのメリとロしか出ないことになります。ところが、指を一旦手孔から離してから、すき間を作った状態にして塞ぐ、というメリの出し方をしていると戻すときにも、指が一旦手孔から離れてしまいます。そうすると、ツのメリからロへ音程を移動するときに必要のないツの音が出やすくなってしまいます。
 指を転がすようにしてすき間をあければ、素早い動きにも対応できますし、開けすぎることも少なくなります。
 ご自分の指の動きをよーく観察してみてください。


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97年9月 「メリの時の口と歌口の関係」。

 尺八の音の魅力の一つがメリ音です。より正確なメリのためのヒントをお伝えします。その2回目です。
前回はメリの時の手孔の開け方についてでしたが、今月は「メリの時の口と歌口の関係」にいてお話しします。
 口元で音程を下げる時の大前提は息の出る部分と歌口を近づけるということです。どんな近づけ方でもかまいませんが、大事なことは息の出る部分と歌口が効率良く近づくということです。
 一般的には1.「顎を引く」という表現を使いますが、顎を引くのと同時に尺八も引いてしまって、息の出る部分と歌口の相対的な位置がほとんど変わらないという例もあるようです。どんな近づけ方と書きましたが、近づける方法には「顎を引く」だけではなく、何種類かの方法があります。
 尺八の角度、顎の角度を全く変えないでも2.「尺八を顎に向かって押し付ける」ことでも息の出る部分と歌口は近づきます。ただし、この方法はメリでない時の吹き方が「口の周りの力が抜けた吹き方」をしていないとやりにくいと思います。普段、尺八を当てる部分の肉が柔らかい状態で吹いていないといくら押し付けても歌口は近づきません。
3.「歌口の近い所を吹く」つまりU字形になっている歌口の中心からはずれて、より息の出る部分に近い所を吹きます。顎を引くときにまっすぐ引かないで少し斜めに引くようにすると、実現しやすいと思います。4.「唇をつきだすようにする」唇をつきだせば自然に息の出る部分と歌口は近づきます。ただしこの方法もメリでない時の吹き方が「口の周りの力が抜けた吹き方」をしていないとやりにくいと思います。5.「舌の位置を変えることで息の流れを変えて音程を下げる」同じ吹き方をしていても口の中で舌の位置がわずかに変わるだけで息の流れが変わって音程が変化します。
 15の方法を総動員して正確なメリを出せるように練習してみてください。チの運指で手孔をかざしたりいっさいせずに口と歌口の関係だけで、ツと同律ぐらいまで音程を下げることができるはずです。


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97年10月 「ロ吹き・メリ・ビブラートの関係」。

 このワンポイントアドバイスをご覧になった方から時々E-mailを頂くことがあるのですが、その中にとても印象に残るものがありました。
その方はロ吹きを続けていたらメリが下がるようになった、というのです。ワンポイントアドバイスのコーナーでメリを取り上げる前のE-mailでした。
その方の音を直接聞かせていただいてはいませんが、恐らく素晴しい乙ロをだされるようになったと思います。
ワンポイントアドバイスのコーナーを始めた甲斐があったととてもうれしく思いました。
それまで口元に必要以上に力の入った吹き方だったのが、ロ吹きを続けることで力の抜けた良い吹き方に変わって行ったのだと思います。
そして、力が抜けることでメリのときに、息の出る部分と歌口とが近づき易くなったものと考えられます。つまり先月のワンポイントアドバイスの1〜4が容易に、効果的に実現できるようになったのです。
ロ吹きは尺八のすべてに良い効果をもたらします。
 今月のワンポイントアドバイスは「ロ吹き・メリ・ビブラート(ユリ)の関係」と書きましたが、ロ吹きとメリの関係は上記の通りです。
「息の出る部分と歌口とを近づけ易い普段の吹き方」を獲得してください。
さて、ビブラートとメリの関係ですが、ビブラートもメリも基本は全く同じであると言って良いでしょう。息の出る部分と歌口との位置関係が効果的に効率良く変化しなければユリもメリも思うようになりません。ビブラートは多くの人が「つけすぎるけれど小さい」ようです。ビブラートが癖になっていて、つけるべきでない所までつけてしまっていることが多いようです。(特に国際尺八研修館の講習会で取り上げる古典本曲ではビブラートはつけません。)癖は直しにくいものです。本人が、やっていると自覚の無いものをやめるのはほとんど無理です。使う技術はすべてコントロールされているべきです。また、「小さい」のはメリがおちにくいのと同じで、唇の周辺に力が入り過ぎていて息の出る部分と歌口との位置関係が効果的に効率良く変化しない状態になっているのです。唇の周辺の力を抜いて吹くことで効率良く音をゆらすことができるようになります。
 また、いつでも同じ調子のビブラートをつけている演奏を耳にすることがありますが、そのメロディー、フレーズに最適のビブラート(早く・遅く・浅く・深く)があるはずです。これらを実現するためにも唇周辺の無駄な力を抜くようにしてください。ビブラートは「必要な所に充分に」つけてください。


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97年11月 「めった後の話」。

 今までめりしっかりめることについて申し上げてきましたが、これはめりが高くなりがちで正しく出すにはほとんどの場合更にめることで修正できたからでした。しかし、本当に大切なことは、正しい音程で吹くことです。めり過ぎてもいけないのは当然のことです。めり過ぎやすいのは、リのめり、チのめりです。ツのめり、ロの大めりはめりすぎることはまれです。そして音程を正しく出すためのもう一つの大切なポイントはめった後しっかり元に戻すということです。例えばレ ツ(メ) レと吹いてみてください。もちろんツ(メ)はしっかりめってください。最初のレと後のレが全く同じ音程になっていますか
 ツ(メ)を吹いたことによって、口の周りの感覚がメリにシフトしてしまっています。したがって、二度目のレは多くの場合とても低く吹いてしまいます。ほとんどの人が陥りやすい現象です。初めのレをしっかり記憶してもう一度ためしてみてください。初めのレと同じ音程にするためには、ずいぶんかって吹かないといけません。しかしこれはかっているのではなくて初めと同じ吹き方に戻っただけのことです。チューナーで調べてみましょう。八寸管でレを吹くとGが表示されます。そしてツ(メ)を吹くと(正しく吹けていれば)Dシャープが表示されるはずです。そしてレに戻してみると、ありゃりゃメーターの針がずいぶん左にきていませんか。一度尺八を顎からはなしてもう一度レを吹いてみて下さい。今度は初めと同じレになっていると思います。ツ(メ)の後、もとのレを吹くにはかなりかって吹くようなつもりにならないと、針は元の位置にきてくれません。しっかりめることは大事なことです。それと同時に全く同じ価値で大事なのが、かり戻すことです。練習方法としては今御説明したレ ツ(メ) レ、またチ リ(メ) チ、ロ ツ(メ) ロ、などの初めとおわりの同じはずの音を同じに吹けるように繰り返すことです。チューナーを使って確認するのも大事ですが、なれてきたら使わずに耳のみで元に戻せるように練習してみて下さい。尺八は手孔があっても吹き方でどのようにでも音痴にすることができてしまいます。二度吹いたレが、間の音に影響されて違っていいはずはありません。尺八はバイオリンと同じように演奏者がその場で音程を作っていかなければならない楽器です。
 めりはしっかり。めったらもどす。めりはしっかり。めったらもどす。


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97年12月 「める前の話」。

 ここ何回かメリのお話しを続けていますが今回もメリに関してです。 先月は「めった後の話」でしたが、今月は、「める前の話」です。メリはメリ以外の音と比べれば確実に出しにくい音です。これをなんとか出し易くするために色々ヒントになることを、お伝えしてきました。ところが、出し易くなるにもかかわらず、このコーナーでお伝えしていない方法があります。なぜお伝えしなかったかというと、なるべく使わないほうがよい方法だからです。お伝えしなくても、自然のうちに身につけてしまっている方を時々おみかけします。それは、メリの直前にタンギングをすることです。あるいは、タンギングのかわりに、唇でいったん息を切ってプッという破裂音とともにメリを出すテクニックです。例えば鹿の遠音の始めの部分に レ 〜 ツ(メリ) という難易度の高い音の動きがありますが、このツ(メリ)の直前でプッという音が聞こえてきます。尺八の、特に古典には、タンギングは合いません。一つの音を吹き続けているのと全く同じ状態で レ 〜 ツ(メリ) を吹いて下さい。 レ 〜 ツ(メリ)の間、唇から出る息は一瞬たりとも途切れないようにです。
 どうですか。タンギングをしていませんか。破裂音が出ていませんか。録音して第三者になって、よーく聞いてください。
 タンギングを使ってしまう癖を無くすのはとてもたいへんなことです。なぜなら吹いている本人が全く自覚せずにやっている場合がほとんどだからです。タンギングは音を途切れさせます。音楽の表現上どうしても必要なときは、使えばよいのです。使うことはとてもたやすいことです。使わないことがとても困難なことです。
 演奏の格をもう一段上げるために「タンギング無し」に挑戦してみませんか。



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