今月のワンポイントアドバイス98年版
   98年1月 「替え指について」。
   98年2月 「替え指 ウ3 そしてカリ」
   98年3月 「ロ 吹き」再び。
   98年4月 「ロ 吹き」もう一回、そして高音について。
   98年5月 「拍子を正確に」そして「間」。
   98年6月 「尺八をあてる位置の修正」。
   98年7月 「譜面を作ろう」。
   98年8月 「姿勢」その2。
   98年9月 「ささえる親指」。
   98年10月 「音を下さい」。
   98年11月 「ピッチいくつぐらいですか 」
   98年12月 「手孔それぞれのピッチ」

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98年1月 「替え指について」。

 尺八の指使いには、伝統的におおよそ決まったものがあります。例えば、甲のツ メは1孔をわずかに開けて出します。しかし、この手法は尺八らしさはあるのですが、現代曲などで大きな音量が必要になったときにちょっと不利です。音量があって、甲のツ メの音程を出す方法・・・これがあるのです。4孔、5孔を全開にしてカリます。可能な限りからないと低くなってしまいます。チューニングメータで確認してみてください。Dシャープになっていますか。
 甲のチ メのオクターブ下の音程を琴古流ではウといい、3孔のみを開けて、ややメリます。これも曲によっては、甲のチ メをそのままオクターブ低くするだけでウと同じ音程を出す手法を使うほうが有利な場合があります。レからウより、レからチ メの方が音の移動がスムーズに行くと思います。
 レ メを出すとき、2孔を半開にする方法でなく、2孔は開けて1孔を閉じる手法もあります。
 リ メを出すとき、4孔を半開にする方法でなく、4孔は開けて1、2、3、5孔を閉じる手法もあります。
これらはいずれも、口元でのメリの微調整をともないます。
 「春の海」の中にツ メ ツ ツ メ ロ というわりと早いフレーズがあります。ツ メのままで一瞬2孔あるいは3孔を開けるだけで ツ メ ツ ツ メ ロ と同じに聞こえます。  これらを「替え指」と呼びます。
 現代曲によって今までに尺八の曲にはなかったフレーズを演奏する必要が生じてきました。伝統的手法ではどうしても作曲家の意図に答えられないことがあります。そういったときに、「替え指」で問題が解決できる場合があります。替え指によって尺八の可能性が大きく広がる場合があります。
しかし、気をつけないと尺八の良さをだいなしにする場合もあります。その音楽がどういう表現を望んでいるか、よく考えて使ってください。
 先人も工夫に工夫を重ねて、いろいろな替え指を残してくれました。ツ メをさらにめってロと同律を出す手法、ウまたはチ メをさらにめってレと同律を出す手法、リ メをさらにめってチと同率を出す手法、などなど。これらの替え指によって尺八の可能性が大きく広がり、素晴しい本曲を残してくれました。
「替え指」工夫してみてください。

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98年2月 「替え指 ウ3 そしてカリ」

 前回は「替え指」のお話しをしました。そのなかで、大事な替え指について触れませんでした。それはウ3です。「さんのう」と呼んでいます。都山流では、「井」という記号で表わします。チより半音高い音です。チより半音高い音にはヒ メリがありますが、どうしても大きな音量を出しにくい音です。そのため先人が工夫を重ねてウ3を作り出したのでしょう。(ウ3が使われ始めたのがいつ頃からなのかご存じの方、御一報いただけたら幸いです。)
 この音は3孔のみ開けて目一杯カル音です。かり過ぎることは、まずありません。ヒ メリを出して、次にウ3を出して同じ音程になっているか確認してください。ヒ メリは高くなりがちでウ3は低くなりがちなので、なかなか同律になってくれません。
 この「カリ」ですが、効率良くカル方法があります。「唇の息の出る部分と歌口との距離を効率良く離す」ことです。これには、尺八の角度だけでなく、「唇の前後の厚みを減らす」ことが効果的です。(実演を見ると10秒でわかります。)
 もう一つカリの考え方として「顎と唇で塞がっている尺八の一番上の孔(手孔ではありません!)の開いている面積を増やす。」ことです。横方向にカッて顎と尺八の間に隙間を作ると音程は効率良く上がります。
 音程を自在にするためにはメリ、カリどちらか一方だけでは不十分です。メッた後、普通の吹き方に戻すときメッた状態からは、かなりカルつもりにならないと元に戻りません。
 上記の方法は ウ3のときばかりではなく、メリの後にとても大事です。
 カリはしっかり。メリもしっかり。

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98年3月 「ロ 吹き」再び。

 このワンポイントアドバイスのコーナーも今回で1周年です。尺八愛好家の皆さんのお役にたっているでしょうか。
 今回は初心に返ってもう一度「ロ 吹き」についてお話しします。この1年間毎日 ロ 吹きを続けられた方いらっしゃいますか。なかなかできることではありません。だからこそ、海童道祖(わたづみどうそ)先生は「1日10分ロ 吹きを続けると達人になれる」とおっしゃったのだと思います。
 さて、この「 ロ 吹き」ですが、 ロだけのための練習だと理解しておられる方が多いと思います。そうだとすると、1日10分の練習がなおさら辛いだけのものになってしまいます。大事なことは10分の間にどれだけ自分を客観的に見つめ、工夫ができるか、です。これは決して精神論ではありません。

  • 唇のどこに力が入りすぎているか
  • 息の流れが歌口にどう当たっているか、
  • 音の立ち上がりがうまく行かないのはなぜなのか、
  • 音の終りがうまく行かないのはどうしてか、
  • 音量が出ないのはどうしてか、
  • わざと当てる位置をずらしたらどうなるか、
  • 小さい音でいいからなん秒吹き続けられるか、
  • 3秒で息を使い切ることはできるか、2秒ではどうか、
  • 鏡を見ながら腕の、手のどこによけいな力がはいっているか、
  • 姿勢はいいか、
  • 暖まった状態で自分の尺八のピッチはどれくらいか、夏なら、冬なら、
  • 横山勝也風の音色を出すには、山口五郎風の音色を出すにはどうするか、
  • などなど などなど などなど

ああいそがしい。とても10分では足りません。
 常にウォーミングアップした状態でしかロが吹けないのはこまります。どういう吹き方をしたらいきなりロをうまく鳴らせるか。
 こういったさまざまな工夫をすることで、自分が自分の先生になれるのです。
 世界一のキューバの野球チームでは、コーチのいないところで練習してはいけないのだそうです。悪い癖がついた状態で 長い時間繰り返すとそれが身についてしまうからだそうです。尺八の練習も同じです。でも師匠に常に見てもらっているというのは現実的ではありません。ならば、自分自身が自分のきびしい師匠なければならないのです。常に自分のやっていることが、最善なのか、どうしたらもっと良くなるか、という工夫する態度、気持ちを ロ 吹きは養ってくれます。 ロの 音だけのための練習じゃないんです。

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98年4月 「ロ 吹き」もう一回、そして高音について。

 いろいろな方から「ロ吹き」がなかなかうまく行かない、というおはなしをうかがいます。満足できる音はそうそう簡単には出ないのです。百発百中で満足のできる音が出せる人なんてこの世の中にはいないんじゃないでしょうか。百発百中満足しているということは進歩を望めないということでもあります。どの吹奏レベルにあっても、不満足な部分があるほうが自然です。
 でも、もっと良いロが出したいですよね。もし、充分にウォーミングアップした状態になるまで待たないとロがうまく鳴らない方、それは口のまわりにとても力の入った吹き方をしているからではないでしょうか。つまり、 ウォーミングアップ によって口の回りの筋肉が、力を出せるようになるということです。こういう吹き方をしていると、疲れやすいと思います。
できるだけ力を抜いて、長く吹き続けられる吹き方を身につけてください。また、口の中をなるべく広くすることもとても大事です。イメージとしては、「息を吸うときのような口の中感じ」で吹く、または、「あくびを噛み殺すときのような口の中感じ」で吹いて見てください。
 さて、ロもうまく鳴らないが、高音もいま一つという方、原因はきっと同じことだと思います。高音を出す一つの手段として、「息の流速を速める」方法があります。このとき、力を入れて口の息の出る部分の面積を小さくしてしまうと、特に唇の上下の隙間を狭めると、雑音成分の多い音になりやすいです。なめらかな音にするには「遠くに沢山息を送る」様な感じ、あるいは「遠くのろうそくを吹き消す」つもりで吹いて見てください。
また、 「高音をできるだけ小さい音で吹く」練習も効果があります。
  ロ吹きと同様に口の回りの力を充分に抜くことはいうまでもありません。

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98年5月 「拍子を正確に」そして「間」。

 この「今月のワンポイントアドバイス」をご覧の方からE-mailをいただきました。その方は拍子が乱れやすいがよい練習法はないかという御質問をされてきました。直接お答えしましたが同様のお悩みをお持ちの方もいらっしゃるでしょうから、その内容を載せます。
 拍子を正確にするには、どういった曲をよく演奏するかによって多少違うとは思いますが、練習法としてはメトロノームを使うのがよいでしょう。このとき、どの音と、メトロノームの「カチッ」が同時に鳴るべきかをまずチェックしておきます。(譜面に印をつけるとなおよい)そして、「カチッ」とチェックした音がずれないような(確認出来るような)早さで(遅い設定でかまいません)繰り返していくとよいと思います。自分の感覚とメトロノームの「カチッ」がずれやすい場所をよく練習してください。これだけのことで、この練習で取り上げなかった曲の拍子までよくなっていくはずです。
 また、リズムが乱れる原因の一つとして、呼吸のリズムが曲のリズムに影響をおよぼしているということが考えられます。これはとても大事なことです。つまり息がたっぷりあるときと、そうでないときで拍子をとらえる感覚が違ってしまうのです。息がなくなってくると、拍子を早くとりすぎるようになります。 

  • 息が余っても必要なだけ音をのばしたら音を切る。
  • 息がなくなって音が切れてしまっても必要な間合いは待つ。

といったことが大事です。後のほうを特に気をつけてください。

 本曲は無拍のことが多く、また「自由リズム」といった説明をされることがあります。この「自由リズム」という言い方が非常に誤解を招きやすく、問題があります。「自由」という言葉が「好きなように」という意味で捕えられてしまうと本曲の本質から遠くなってしまいかねません。好きかってに吹いて、いい本曲になるはずはありません。本曲の「間」には最善の「間」があるはずです。ほんの一瞬ずれることで、だいなしになる瞬間もあります。
 この極限の「間」が呼吸に影響されて、崩れることがあります。つまり、息がなくなると「間」を早くとらえがちになってしまうのです。必要なだけ、間をもてなくなってしまうのです。息がなくなって拍子が不正確になるのと同じ現象といっていいかと思います。

 演奏するのは自分でも、その演奏を他人が聴くように聴ければ、達人の域にあるといって過言ではありません。「間」も「音程」もつねに第三者になってチェックできればすばらしいと思います。

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98年6月 「尺八をあてる位置の修正」。

 ある程度良い音が出るようになった方でも、時として音が出なくなったり、甲になりやすくなってしまう事がありませんか。
 問題の一つは口の息の出る部分の上下幅が狭くなりすぎていることです。このことについては以前にもお話ししましたので、今回はもう一つの問題についてお話しします。

 尺八を吹くためには、当り前のことですがまず顎に尺八をあてなくてはなりません。この当てる位置が問題です。最善のポイントからずれることで、不都合がおきます。左右方向がずれることは少ないと思います。ずれやすいのは、上下方向です。ほんの1mmずれただけで 音が出なくなったり、甲になりやすくなってしまいます。
 修正するには顎に尺八をあてる位置を直せば良いのです。ところが、当てる位置を修正してもしばらく吹いているとすぐに元の位置にもどってしまいがちです。
 尺八を吹いている時には、尺八は主に下になる手の中指と親指それに顎の3点でバランスをとっています。(もっと詳しく言うと、顎は尺八を前に倒そうとしていて、下の手の中指と親指は後ろに倒そうとしています。この2方向の力がバランスを保っているわけです。)このバランスが変わらない限り元の位置に戻るのです。
 で、かんじんのこのバランスを変える方法ですが、下になる手の親指の位置を変えるのです。親指を上にずらすと尺八を後ろに倒そうとする力が弱まりますし、下にずらすと尺八を後ろに倒そうとする力が強まります。これによって顎に当てる位置を修正していくことができます。

 下の親指の位置が音を出すときの微調整の一つのファクターになるかもしれません。ためしてみてください。

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98年7月 「譜面を作ろう」。

 いままでずっと、実際に尺八を吹くことについてのヒントをお話ししてきました。今回から何回か、尺八を吹くテクニックについてではないけれど、人前で演奏するときに役にたつポイントについてお伝えします。
 その第一回めは「譜面を作ろう」です。

 良くみかける譜面に、何枚かばらばらになった状態のものがあります。このての譜面は演奏前にめくりやすいように、すこしずつずらして並べ直す必要があります。しかし、本番に臨んだときに上手に並べ直してあるはずの譜面が少しずつずれてしまっていて、必要なところが見えなかった、という経験はありませんか。また、練習のときも始めに戻るときいちいち並べ直さなければならず、練習時間が無駄になっています。こういう譜面では、1ページ目と2ページ目が逆になってしまうことだって、おこりうるのです。なんとおそろしいことでしょう。一生懸命何時間もかけて練習したことが、ページの並びだけでパーになってしまうのです。
 こんなことが起きないように、譜面を作りましょう。むずかしいことはありません。譜面を切ったり貼ったりして、上手にめくれるように、ノート状にすればよいのです。場合によってはコピーして切り貼りする必要もあるかもしれません。
 一冊になっていると、始めに戻るのも簡単、めくりも毎回同じようにできる、ページが入れ替わることはない、などいいことずくめです。きれいな紙で表紙をつくって、タイトルを書き込めば、それだけで、本番の不安がだいぶ減りますよ。

 でも、どんなにきれいにつくった譜面でも、野外では風に飛ばされます。そんな心配のない「暗譜」がほんとうは一番。

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98年8月 「姿勢」その2。

 97年7月のワンポイントアドバイスで長管を吹くときの姿勢のついてもうしあげました。長管でなくても吹くときの姿勢にはよりよいものと、そうでないものがあります。今回はその姿勢について再度お話ししようと思います。

 まず、立って演奏する場合、足はほぼ肩幅ぐらいに開きます。そして、尺八を持ったときに下になるほうの手の側の足を、少し前にだすようにすると安定します。足がそろった状態は不安定です。舞台でお辞儀をするときは足をそろえていていいのですが、お辞儀からなおるときに、片方の足を引くようにするとよいでしょう。 片方の足を出すようにしてもかまいません。(二重奏のときは二人とも出すのか引くのか決めておいた方がいいでしょう。一人が出して、もう一人が引くと変です。)

 椅子にすわっての演奏で気を付けなければいけないのは、せもたれです。つい、よりかかりたくなりますが、見ためがあまりよくないのと、背筋が伸びないことで、息の流れがスムーズでなくなります。椅子にせもたれがあっても、浅めに腰掛けて、足は立ちのときと同じように、尺八を持ったときに下になるほうの手の側の足を、少し前にだすようにするとよいでしょう。

 正座のときは問題はそれほど多くはありません。自然と背筋が伸びて良い姿勢になります。ただ注意してほしいのは、正座しているのと同じ床に譜面を置いた場合です。つい譜面に顔が近づいてしまいがちです。そうすると当然まえかがみの姿勢になってしまいます。ほんのちょっと譜面がななめになるだけで、ぐっと見やすくなりますので、譜面台を使うことをお奨めいたします。

 姿勢がよいと息の流れがスムーズになって、演奏も良くなっていきます。  達人の姿は美しいものです。ほんのちっとの気遣いで、よりよい演奏ができます。

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98年9月 「ささえる親指」。

 尺八を吹く皆さんは親指に「たこ」がありませんか。 尺八を吹くときに下になるほうの手の親指です。人によってはとても大きなたこがあります。 尺八をささえる為にこの指が大きな役割を果たしているのです。

 しかし、たこができるということはずいぶん力が入っているからに違いありません。
尺八を持たずに中指と親指をくっつけて(影絵の「きつね」のようにして)力を入れてみてください。 この状態で人さし指と薬指が自由に動きますか?
 では「きつね」のまま中指と親指の力をぬいて、同じように人さし指と薬指を動かしてみてください。 こんどは割と動きやすいと思います。

 「たこ」ができるほどの力で支えている状態では、人さし指と薬指の動きが非常に制約を受けてしまいます。(もちろん大きなたこがあっても、早いフレーズが楽々吹けてしまう人はこの限りではありません。)ですから、この尺八を支える二本の指からなんとか力を抜いて人さし指と薬指がより動きやすくなるようにしたいものです。(もしかするとコロコロがうまくいかないのは、このせいかもしれません。)

 いくつかの工夫を御紹介しますので、参考にしてください。

  1. 親指の当たる位置に滑り止めを貼る。

    • ゴムシート
    • 三味線をひくときに膝にのせるゴムのあみ
    • カーペットの滑り止め
    • 紙やすり(耐水性のもの)
     
  2. 板状のものを貼って太めにする
  3. 突起をつけて親指にのせるようにする

 リコーダーの演奏家が 紙やすりを使っていると言うことを聞きました。600〜1000番くらいのものを両面テープで貼ると良いでしょう。耐水性のものでないとすぐにだめになってしまいます。

 No.2は人間の手には自分の手の大きさに合った、持ちやすい太さがあります。尺八が細すぎる場合なにか厚みのあるものを付けて持ちやすい太さにすることで、無駄な力が抜ける場合があります。

 No.3は長管に特に有効かと思います。クラリネット用のL形の金具を専用の小さい木ねじで取付けている人もいます。

 色々工夫をしてみてください。No.2では吹く角度まで変化してしまうかもしれません。(それが良い結果になることもあります。)

 先人が色々な工夫を長年に渡ってしてくれたおかげで、今の尺八があります。いまその工夫をやめてしまうのは伝統を守ることになりません。「今」も伝統の過程にあるのです。

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98年10月 「音を下さい」。

 尺八と他の楽器と合奏するときに多くの場合、尺八が基準になる音を出します。お箏の人から「音を下さい」と言われますよね。その合奏の善し悪しが決まるとても大切な瞬間です。
 このときにどんな音を出すか。大切なのは音量でも、音色でもありません。大切なのは、ただただピッチです。
 どんなピッチで出すか。それはずばり、「本番で出すピッチと全く同じピッチ」ということです。これが一言で言えるほど簡単ではありません。
 尺八は(尺八に限らず管楽器は)楽器の温度が上がるとそのピッチも上がります。従って冷えた状態の尺八で曲を吹き始めると息で管が暖まり、それにつれて、曲の途中でピッチも上がっていきます。よほどの達人でもこれを修正しながら吹くのは困難です。だから可能な限り本番と同じ状態まで尺八のコンディションをもっていって、その上で基準になる音を出さなければなりません。「本番と同じ状態」が大切です。
  また、「音を下さい」と言われた瞬間についがんばってしまって、本番で出すピッチより高いピッチで吹いてしまうこともあります。
 「本番と同じ状態」になっている尺八で「本番とおなじ吹き方」で音を出して下さい。そして本番が近くなったら尺八は懐などに入れて冷えないようにしなければなりません。ソロで吹くときでも途中でピッチが変わらないように、しっかり抱きしめて本番に臨んで下さい。
 プロが本番前にどうしているか、覗くと勉強になりますよ。

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98年11月 「ピッチいくつぐらいですか 」

 前回「音を下さい」と言われたときのお話しをしました. 本番で出すピッチで他の楽器に音を合わせてもらうのが大事であることを申し上げました.

 合奏する相手の楽器がピッチ調整のできるものならばよいのですが,尺八同志で二重奏・三重奏をする場合もあります.こんな時に「ピッチいくつぐらいですか 」と聞かれます.

 十分にウォーミングアップが済み,尺八も熱平衡状態になっている安定した状態(仮に標準状態といいます)でその尺八のピッチがどのくらいなのか,ということです.たとえ1Hzでも修正しつつ吹くのはたいへんなことです.

 近ごろではA=442Hzでチューニングすることが多い(例外多々あり)ようですが合奏者同志のピッチが合っていればいいのです.(Aというのは1尺8寸ではチの音です.ロ=D,ツ=F,レ=G,リ=Cです.またツメ=#D,ツ中メ=E,レメ=#F,ウ(チメ)=#G,リメ=#A,リ中メ=Bです)

 したがって,自分の尺八が標準状態ではどのくらいのピッチなのかを知っておくことが大事です.それにはチューナーを使うのが最善です.

 1万円以下で十分な機能のものを楽器店などで売っていますのでお手元に置くことをおすすめします.最近のチューナーは音程が変ってもスイッチを切り替える必要の無いものがほとんでとても便利にできています.例えばロを吹いてもそれがA=442Hzのときのロであることを表示してくれます.

 例えば標準状態で3Hzも違った尺八同志では良い演奏は期待できません.これは尺八を購入するときの参考にもなるかと思います.独奏のみであればどんなピッチの尺八でも相対的に音律がよければいいのですが,尺八同志の合奏を考えているならば,標準状態でのピッチが大事な要素になってきます.

 製管師の吹き癖と購入者の吹き癖が違う場合,当然ピッチの違いに反映する場合もありますのでA=442Hzで作った,といわれてもご自分で確認をしてください.吹き癖で極端にピッチが違ってしまう場合は注文しなければならない場合もあるかもしれません.

 良い演奏は正しい音程から生まれます.音程を正しくするのはたいへんな修行が必要です.このたいへんな修行を怠った人の演奏がいいはずはありません.

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98年12月 「手孔それぞれのピッチ」

 前回と前々回、ピッチの話しをしました。もう一回ピッチに関するお話しをします。

尺八には普通五つの手孔が開いています。そして、音程を変える基本は手孔を開けたり閉じたりすることです。

しかし、正しい音程で吹くということは、ただただ、手孔を開けたり閉じたりすればいいというものではありません。

  1. 同じロでも甲と乙では甲の方が正しい音程より高めになりやすいものです。
  2. 上の方の手孔が開くほど顎でのメリカリが利きやすくなるため、チ・リ・イなどは音程が不正確になりがちです。
  3. メリの後はメリの影響でメリでない音までメリぎみに吹いてしまいがちです。
  4. 三のウの後のチは高く吹いてしまいます。
  5. メリがある程度自由に出せるようになると、低すぎるウを吹いてしまうこともあります。
  6. などなど

 要は正しい音程で吹かなければならないということです。 常に自分の出している音が正しいか聞いていて、違っていればすぐに修正しなければなりません。 手孔があっても尺八はフレットのないバイオリンや三味線のようなものだと思ってください。

 尺八によってはツのメリを出し易くするために、ツが低めになっているものや、三のウを 出し易くするためにチが高めになっているものがあります。こういう尺八ならなおさら音程感覚を研ぎ澄まして常に微調整しながら吹く必要があります。

 どうしても吹きながら修正できないならば手孔の位置を直すしかありません。たとえ1000万円の尺八であっても、手孔を埋めるとか、削って少し大きくするといった修正が必要になります。

 うるさいほど音程(ピッチ)のお話しをしてきましたが、なんといっても良い演奏への最大の近道だからです。

 音程を正しくする修行をすると、音程だけが良くなるのではありません。その修行の間に音に対するさまざまな面からの感覚が養われ、その人の音楽が一回りも二回りも大きく深いものになるのです。

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